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第119回学術集会(平成22年6月13日(日))
【症例から学ぼう】
更年期の不定愁訴
松 潔
東京歯科大学市川総合病院産婦人科
2008年において,更年期年代である45〜59歳の女性は1277万人,女性の総人口の19.5%にあたる.日本における正確な統計はないが,更年期女性の50〜80%が更年期障害を訴えると言われており,少なく見積もって25%が何らかの治療が必要であるとしても,更年期障害は319万人,総女性人口の5%もが治療対象となる重要な病態である.いわゆる女性外来受診者の統計をみても,どこも50%以上が更年期障害患者であり,治療の潜在需要は多く,その対応はOffice gynecologyには欠かすことのできないものと考えられる. ところが,更年期障害というと,どうもブラックボックス的で掴みどころがないという意見も耳にする.確かに,更年期障害とは「更年期に現れる多種多様な症状の中で,器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び,これらの症状の中で日常生活に支障を来す病態を更年期障害」と定義されており,誤解を恐れずにいえば,更年期の年代におこる器質的疾患によらない愁訴はすべて更年期障害になりうると言えるため,多くの愁訴を含んだ複雑な病態である.しかし,逆に更年期障害は単一疾患・病態ではなく,症候群であるという認識を持って,以下のポイントを押さえさえすれば,その診断・治療は決して難しいものではなく,「霧が晴れたようによくなった」と言われるはずである. 1)愁訴の整理 問診票をうまく使って愁訴を整理すること,特に一番悩んでいることを把握することが重要である. 2)除外診断 上記のとおり,更年期障害は他の疾患の除外により診断される.実際,身体的症状を主体とするうつや甲状腺機能異常などが混在する頻度は高く,的確に当該科へ依頼することもポイントの一つである. 3)背景因子の把握 更年期障害はホルモンや加齢といった生物学的要因のみならず,社会的・環境的要因や心理的・性格的要因も関与することにも注意を要する. 4)他の退行期疾患,特に骨粗鬆症や脂質異常症の有無のチェック 中高年女性におけるトータルヘルスケアの重要性に鑑み,エストロゲン消退に伴う他の退行期疾患,特に骨粗鬆症や脂質異常症などについて精査する.これは治療方針にもかかわってくる.
5)ホルモン補充療法(HRT)の活用を考慮する 漢方療法・HRT・SSRIが最近の治療の三種の神器である.特にHRTは効果が高いことが知られている.近年,ニーズに合わせて,使用できる剤型の選択肢も増え,また,昨年にはHRTガイドラインも発刊されており,安全かつ有効に使用できる状況にあるといえる. これらを踏まえた上で,本セッションでは実際の症例を通して,更年期障害の診断・治療のこつとピットフォールをまとめてみたい.明日からの診療に活かしていただき,多くの更年期女性の笑顔に出会っていただければ幸いである.
日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 47(2)
192-193, 2010
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